2021/12/26
家庭のこと
目次
「ワンオペ育児」という言葉を耳にしたことがある方も多いと思います。語源は、チェーン店などで、従業員ひとりがすべての業務をきりもりすることで問題になった「ワンオペ(ワンオペレーション=ひとり作業)」。これが、ママたちの家庭内労働=家事、育児と通じることから、ネットを中心に広がりました。この「ワンオペ育児」という言葉に多くのママが共感しています。
なぜかというと、男性の家事労働時間の短さや男性の労働時間の増加が考えられます。「日本人の働き方と労働時間に関する現状」の調査によると、平日に10時間以上働く男性の割合は、1976年の17%から、2011年には43%と増えています。労働時間の増加で帰宅時間が遅くなり、夫は家事や育児と向き合う時間がほとんど取れないという現状があります。
「社会生活基本調査」(総務省統計局)によると、1日あたりの平均家事時間は、男性19分、女性144分(2時間24分)、共働き夫婦では、夫14分、妻180分(3時間)と、その差はさらに広がります。過去20年間の変化をみてみても、共働き夫婦の夫の家事時間は、1996年(平成8年)で1日あたり8分、2016年(平成28年)で1日あたり14分と、わずか6分しか伸びていません。男性の家事時間の伸びは非常に緩やかであることがわかります。
その結果、ママが「ワンオペ」で家事や育児の大半を担う家庭が増えているのです。夫の単身赴任によって、否応なしに「ワンオペ育児」にならざるを得ない場合もあります。
私は子育てをする前は、こんなにイライラすることはありませんでした。独身の頃は、自分自身のことはなんとかできたし、感情のコントロールできました。ところが、子どもは言うこと聞きません。他の子と比べて発達が遅いと不安になります。うちの子は、育児本に書いてあるようには発達していないみたいです。自分が思い描いたような「いい子」にもしてくれません。
子どもは思い通りになりません。ましてや、子どもが複数になると、ますます言うことを聞きません。
子どもが幼い頃、なんで自分がこんなにイライラするのかと嫌になっていました。私は子どもに規則正しい生活をさせないといけないという親としての責任を感じていました。夫が忙しくて不在、7年間の単身赴任で一人で育てないといけないという重圧もありました。私は子どもに愛情を注いでいるつもりで、イライラして子どもに八つ当たりしてしまっていました。出産後は寝不足やホルモンのバランスも悪くなり、さらに子育ての不安など、さまざまな要因で、産後のママたちは不安定になりがちです。
・朝6時、子どもが起きる前に会社に行く夫に弁当と朝食を作る。夫を送り出す。
・朝7時、赤ちゃんが起きる。おむつ変え、授乳する。真ん中の子が起きる。上の子が起きる。トイレ、着替え。朝食。
・朝8時、上の子が小学校へ行くのを送り出す。用意するものは、上靴、給食のエプロン。工作に使う牛乳パックが要るなんて聞いてなかった。
「なんで今頃言うの!」イライラする。
・朝9時、幼稚園バスに真ん中の子の見送り。バス停であったママ友と子どもたちと一緒に公園へ。朝食の片付けも洗濯もまだだった。イライラする。
赤ちゃんが泣き出す。慌てて家に帰る。授乳していたら、居眠りしてしまった。うかうかしてられない洗濯。洗濯物を干したら、夕食の買い物。家に戻ったら、暖かい昼のうちに赤ちゃんを沐浴させる。
・14時、真ん中の子の幼稚園のお迎え。昼食の片付けもしてない。イライラする。またバス停のママ友と子どもたちと公園へ。
・15時、小学生の上の子も帰宅。宿題をさせて、赤ちゃんに授乳。再び公園へ。
・18時、30分間だけのアニメ「アンパンマン」を見る。その間に夕飯作り。風呂の支度。夫は仕事で帰ってこない。イライラする。
食事が始まっても、子どもたちはおしゃべりしたり、ふざけたりして栄養を考えて作った食事も遊びながら食べる。「そういえば、私朝食も、昼食も食べてない」イライラする。
・19時、宿題をさせる、お風呂に入れる、歯磨きさせる、パジャマに着替えさせる、ああ21時には寝せないといけない。ため息が出る。
お布団に入り、絵本の読み聞かせ。みんなで順番にお話を作る。赤ちゃんが泣き出す。赤ちゃんに授乳。私が赤ちゃんの方に気を取られていると、上の子2人はふざけ出す、暴れる。一向に寝そうもない。イライラする。私の心のコップはイライラでいっぱいになる。もう限界。
「寝なさーい!」つい怒鳴ってしまう。自分の感情のコントロールができない。
・21時30分、目標より30分も過ぎた。イライラする。
ようやく子どもたちがスヤスヤ寝息を立てて寝る。子どもの匂い。癒される。
子どもの罪のない寝顔を見てると罪悪感。「また、今日も怒鳴ってしまった…」「食事の片付けも、洗濯物の取り込みを忘れていた」
・22時、「ただいまー」大きな声と共に夫が帰宅。その声に子どもたちが起きる。イライラする。
夫の食事の支度、夫のお風呂。赤ちゃんが泣く。赤ちゃんの授乳。私が泣きたいくらい。
・23時、片付け。洗濯物たたみ。アイロンがけ。上の子のトイレ。
・24時、自分のお風呂。
男の子3人。6歳、4歳、1歳。食事の暇のない子の頃の私は48kgあった体重が39kgまで落ちていました。そういえば、1日一食の日もありました。
体の症状、腰痛・肩こり・頭痛・吐き気・咳・めまいがありました。今思うと「仮面うつ」だったかもしれません。
仮面うつ病とは精神症状よりも身体症状が強く出てしまっていることが多い”うつ病”のことです。
なんだか疲れやすい、だるい、頭痛や肩こりなどの身体症状がずっと続いている、気がつけば人との会話が辛くなったり、楽しめていたものが楽しいと思えなくなったりと、心の不調になかなか気が付きづらいなどの特徴があります。頭の中では、毎日のようにこんな言葉を繰り返しては落ち込んでいました。
「また今日も怒鳴ってしまった。今日こそイライラしないぞと思ってたのにあ…。周りのお母さんは子どもに優しく接してるのに、どうして私はできないんだろう。私はお母さん失格だ。」
ひどく落ち込んだときには「逃げてしまいたい」とよぎることがありました。子どもたちが寝静まった後にスーパーマーケットに買い物に出て、車の中でアイスクリームを食べたことがあります。ほんのひとときの慰めだったように思います。結局それくらいで、実際に子育てから逃げることはありませんでした。私はかろうじて逃げずに済みましたが、実際に失踪したママ友が居ました。
私だって、こんなストレスが続いたり、さらにストレスが加わったりすると、ひょっとしたら子育てから逃げてしまっていたかもしれません。
また、別の子育て中の友人は、うつ病になって入院した時「ようやく休めた。ホッとした」と打ち明けてくれました。良妻賢母の彼女もワンオペ育児に励んでいました。がんばり過ぎて、心が折れてしまったのだと思います。
約20年前のことをこうして書いていると、あの時の自分に教えてあげたいことがあります。夫にもう少し上手に助けを求める言い方があったんじゃないか、行政なのどの育児支援を求める方法もあったんじゃないか、自分ばかり大変な思いをしていると犠牲者になっていたんじゃないかなど…。
いけない、いけない。こんなふうに、なぜか自分を否定してしまいがちなのが母親です。「お前の育て方が悪い」って妻のせいにする父親もいるのに…。子育てでイライラするお母さんにかけてあげる言葉は、これです。
お母さん、あなたは一生懸命がんばっています。
だから、イライラもします。
どうか、イライラする自分を責めないでください。
そして、助けを求めてください。
甘えられる人を探しましょう。
自分にも優しくしましょう。
犠牲者にならないで、子どもと自分のために、ひいては夫、家族のために…。
(株)メンタルサポート研究所心理カウンセラー 臨床心理士 九州女子大学非常勤講師 米倉けいこ