話が通じない上司への不満を解消する

2021/05/12

職場のこと

目次

皆さんの職場に話が通じない、やっかいな上司はいませんか?

皆さんの職場に話が通じない、やっかいな上司はいませんか? こちらが言ったことを聞こうとしない。何かを言っても、そのことに対してではなく、自分が言いたいことを主張してくるといった上司はいませんか? そういう上司がいるとこちらのストレスが大きくなってしまいます。

上司に振り回されての業務だと、忙しさはつらいだけ

話が通じない上司に不満がたまったあげくに、メンタルヘルス不調に陥ってしまった30歳代の働く女性のカウンセリングを担当しました。

上司からの業務指示の内容はあいまいで、“思い付きで指示を出す”“じゃあやっといてと丸投げする”“達成する業務の基準を明確に示さない” “そのくせ上司が満足いくレベルで出来ていないときは叱責される”“言われていないのに前もって言ったはずだと言い張る”“逆に確かに言ったのに、そんなことは言ってないと機嫌が悪くなる”“依頼された業務の中には、指示して以降忘れられているものすらある”といったものでした。

その指示のあいまいさに対し、“おかしいことはおかしい、出来ないことはできない”とはっきり進言すると、それに対する回答はなく“お客様のためだからやれ”“会社のみんなのためだからやれ”と言われてしまい、議論がかみ合わない。それが繰り返され、彼女の業務は上司の思い付きで振り回されることが多くなり、仕事量が増えていきました。

彼女は仕事が多くてもやるべきことはやれる人なのですが、この上司に振り回されての業務だと、忙しさはつらいだけです。

産業医面接を受け、カウンセリング

人は目標や意義が明確な仕事をやっているときは、その業務に多くの時間を費やしても精神的負担は少ないのですが、それらが見いだせない仕事をやらされるのは大きな精神的負担を強いられます。

その上司が彼女の職場に配属されて以来ストレスがたまり、イライラが増えていきました。そして家庭でも同居している母親や妹に当たり散らすことが多くなり、母親と妹から「少し休みを取ったほうがいいのでは」と心配されるようになりました。

またお酒とたばこの量が増え、食事の時間と量が不規則になり、夜中に目が醒めることが増え、通っていたジムからも足が遠のき、休みの日は出かけずに家で寝ているようになっていました。職場でも仕事に集中できず、“ぼーっ”としている時間が増えてきました。仕事にもやってられない気分を感じることが増えました。

その後、年一回職場で実施される職場のストレスチェックで、高ストレスと判定されてしまいました。そして産業医面接を受け、そこでカウンセリングを勧められました。

情動焦点型のストレス対処

カウンセリングでは、やっかいな上司に対する不満を訴えました。彼女のストレスはやっかいな上司に話が通じないことでることは明らかです。しかしやっかいな上司が居なくなることは無い、かといって上司の性格が変わり話が通じるようになるとも思えない、そう思い、彼女は自身のストレスをどうしようも無いものだとあきらめていました。

ストレス要因となった人と離れることができない、そしてその人が変わってくれる(わかってくれる)ことが望めそうにもない。こんなとき私たちはストレスを減らすことをあきらめてしまいがちです。

しかし待ってください。あきらめる必要はありません。ストレスを減らすためのストレス対処は、ストレスの要因をなんとかすることだけではありません。ストレスの要因を何とかしようとするのを「問題焦点型のストレス対処」というのに対し、ストレス要因に影響を受けた状態、すなわちストレス反応を何とかしようとする「情動焦点型のストレス対処」といいます。

この場合のようにやっかいな上司はどうしようもない、ストレス要因を何とかできないときは、今のストレス状態を何とかしようとするのをやっていきます。すなわち、上司にわかってもらおうとするばかりだけではなく、自身のストレス気分をすっきりさせていくのです。

4~5回のカウンセリングでストレスが減り元気を取り戻すケースも

「上司が変わらない、つまり環境が変わらないのに、ストレスが減るなんてことがあるのか?」、ストレス対処方法として、ストレスの原因となった問題に対処することばかりをやってきた人は、ついそう思ってしまいがちです。

ストレスの原因を何とかしようといつも心掛けて行動している人は、問題解決志向が強く、前向きです。しかしそういう人が、このやっかいな上司のように、自分の努力ではどうしようもないストレス要因にぶつかってしまったとき、メンタル不調になってしまうことが少なくありません。

今までにもそういう人が多くカウンセリングに訪れました。彼らは、今までも常にストレスの原因に対処しうまくやってきた人たちで、それ以外の方法を取らない、ストレス対処法のバリエーションが貧弱なのです。

ストレス対処のバリエーションが少ないと、今までの方法でうまくいかないときに脆さを表してしまいます。今まで職場で仕事をバリバリこなしていた人に多く、つまずき始めるとうつ病にまで発展し、半年や1年、長い場合には2~3年ほど回復に時間を要してしまう場合も多くあります。

やっかいな上司への対処に苦慮していた彼女もそうです。それまでは仕事はわりと順調で、周囲からも彼女の仕事に良い評価を得ていました。

彼女がカウンセリングに来たのはとてもタイミングが良かったと思いました。もう数か月来るのが遅くなっていれば、もしかしてうつ病になってしまっていたかもしれません。

うつ病になってしまうと回復までにはかなり時間がかかりますが、うつ病になる前だと、そんなに時間がかからず元気になるケースが多いものです。個人差はありますが、私たちがカウンセリングで主に使っている「感情処理法」では、4~5回のカウンセリングでストレスが減り元気を取り戻すケースも多いものです。

自身のストレスに対して、どのように対処しているか見直してみてください

そこでみなさんにも、自身のストレスに対して、どのように対処しているか見直してみてください。ストレスの原因となるものを何とかしようとするストレス要因への対処だけに偏っていないでしょうか。またストレスの要因への対処も、ストレスの原因を何とかしようとする問題解決だけでなく、下記の方法が考えられます。

  • ストレス要因へ対処する方法として

①相談の活用(上司との問題を適切な第三者に相談する)

②コミュニケーション技術を身につける(その結果上司との関係を改善するため)

③アサーションを身につける(アサーションは、上司に自身が伝えたいことをうまく表現するための技術)

これらの活用により、ストレスの原因を何とかしようとすることにも幅が広がります。そしてストレス要因への対処ではなく、ストレス反応への対処の一例としては下記のものがあげられます。

  • ストレス反応を緩和する 自分のメンタル状態を改善する

①マインドフルネス(心身をリラックスさせる瞑想)

②アンガーマネジメント(怒りをコントロールする)

③認知行動療法の認知の修正(上司との問題に関する考え方を修正しストレスを減らす)

⑤感情処理法(上司に対するイライラや仕事に対するやってられないような気分、つまりストレスのもととなる不快な気分を処理し減らす)

⑥カウンセリング(ストレスそのものを解消する)

対処法を上手に使い分け、自身のメンタルヘルスを良い状態に

いかがでしょうか? これらのなかのいくつかの方法を習得し、自身のストレス対処法として日常で使うことが、ストレス対処へのバリエーションを増やすことになります。

彼女のケースのように、ストレスの原因となる上司を変えることが難しいときに、特に有効な方法です。ストレス要因への対処、ストレス反応への対処、これらの対処法を上手に使い分け、自身のメンタルヘルスを良い状態に保ってください。

 

株式会社メンタルサポート研究所 代表 博士(学術)・臨床心理士 倉成央