こんなときに「うつ病」になりやすい

2023/08/25

自分のこと

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「うつ病」は、いつ襲ってくるかわかりません

「うつ病」は、いつ襲ってくるかわかりません。そして「うつ病」になってしまうのはあっという間です。ゆっくりと進行し、徐々に元気をなくしていくように見えるという人もいますが、何かがポッキリ折れてしまったように急に元気がなくなって、「うつ」っぽくなる人も多いのです。
「先月会ったときはあんなに元気だったのに、まるで別人みたい。いったい、何があったのかしら……?」
「本当に急なことで、自分でも驚いています。ある朝目が覚めたら突然、身体が動かせないほどだるくて、気分も沈んでいたという感じなのです」
 このように、「うつ病」になるときはあっという間に、というのが怖いところなのです。そしていったん「うつ病」になってしまうと、ただちょっと気分が落ち込んでいるという状態ではなく、病気にかかっているということなので、医療的な処置やカウンセリングを受けて時間をかけないと回復しないというのも怖いところです。

何がきっかけで「うつ病」にかかってしまうのでしょう

では、人はどういうとき、何がきっかけで「うつ病」にかかってしまうのでしょう。どういう状態のときに「うつ病」になりやすいのでしょう。どういうことがきっかけで「うつ病」になりやすいかを知っておけば、自分がそういう環境にいるときこそ気をつけ、その知識を予防に役立てることができます。
きっかけは、下記に挙げるように、日ごろの生活の中で誰にでも起きることがほとんどです。

その主だった要因を見ていくと、第一に「死別」や「離別」が挙げられます。
「20年以上連れ添った配偶者と死に別れた」
「3年以上つきあっていた恋人と別れた」
「家族の一員であった愛犬が死んでしまった」
などなど。お別れすることによってもたらされる精神的ダメージがどれだけのものかは、みなさんも察しがつくと思います。ストレスの大きさについての研究では、人生で起きる出来事の中で、「配偶者との死別」が最もストレスが高いといわれています。

 二つめは、人間関係の悩み。
「上司との関係がうまくいっていない」
「同僚との関係がギクシャクしてしまった」
「部下とうまくコミュニケーションがとれない」
これらがストレスを増大させるのは言うまでもありません。

 三つめは、転勤(左遷)、昇進、降格、転職などによる「仕事の内容・責任」の変化。
「○○に転勤(左遷)になり、仕事も顧客も変わった」
「課長に昇進し、プレイング・マネージャーを兼務せざるをえなくなった」
こういったことに直面すると、大きなプレッシャーを背負ったり、逆に緊張の糸が途切れてしまったりするので、注意が必要です。

これが「うつ病」を誘発させるきっかけに

四つめは、仕事を失うこと。
定年退職、解雇、会社の倒産……と、その理由は人によってまちまちですが、「することがなくなってしまった」「大事なモノを失ってしまった」という意味においては共通点があり、精神的苦痛を余儀なくされます。
「会社が倒産して、家族を養うために必死で就職先を探し、何とか再就職を果たしたんですが、ほっとしたとたん『うつ病』になってしまって‥」
こう言った40代の男性は、大きなストレスに気づかずに頑張っていて、あるとき、たまっていたストレスに押しつぶされてしまったのかもしれません。

五つめの要因として、これは母親に多いのですが、子どもの親離れがきっかけとなる場合もあります。
 それまでは、「手がかかる」と文句を言いながらも、子どもの世話を一生懸命にやっていた。しかし、子どもが成長していくにつれ、それほど手を焼かせることもなくなり、しだいにやってあげることが少なくなっていった。大学生になろうものなら、もう立派な大人。母親とは完全に距離を置くようになる。
 そんな寂しさ、むなしさが「うつ病」を誘発させることもあります。これは「『空の巣』症候群」とも呼ばれ、子どもの受験が終わった、ひとり暮らしを始めた、社会人になったなどの、子どもの成長の節目に表れることが多いようです。

 六つめの要因は、引っ越しなどによる生活環境の変化。
「えっ?」と意外に思う人もいるかもしれませんが、「引っ越しうつ」といわれるほどよくあることです。引っ越しというのはとても大変な作業、その前後は心身ともに緊張と興奮の状態にあります。新しい家や人間関係などの環境にも順応していかなければならない。ご近所づきあいも一から構築していかなくてはならない。加えて、前の慣れた家や人間関係や日常の風景を失った寂しさ。これらは十分に大きなストレス、「うつ病」を誘発させるきっかけになるのです。

 七つめには、仕事でストレスが強い状態が続くこと。
これはたとえば、難しい仕事で気持ちが緊張している状態が続いたり、仕事が集中して忙しい状況が何カ月も続いたり、残業と休日出勤を合わせた時間外勤務が月に80時間を超えるような状況が続くこと。また、仕事のことが気になってなかなか眠れないような状況が続くこと、などもそうです。こういう状況のときには、本人が意識していなくても、「うつ病」を発症するリスクは高くなっている状態であると考えたほうがいいでしょう。

注意が必要なのです

最後に八つめ、大きな精神的なショックを伴う出来事を体験した後。
2011年の東日本の大震災は、まさにそれに当たります。災害を体験した人たちは大きなショックを受けました。強い不安を感じた人もいれば、大きな悲しみを体験した人もいます。しかし、落ち込む暇もなく、自分や周囲の人の安全を確保するため、困っている人を助けるため、家や職場、そして街の復興のために、疲れた身体に鞭打って活動し続けなければなりません。
もちろん、被災した人たちがみな「うつ病」になってしまうわけではありません。しかし、こういう強いストレス環境下にもかかわらず、落ち込んでなんていられないという状況に置かれると、「うつ状態」になってしまってもおかしくないので、注意が必要なのです。

うつにならない言葉の使い方/ダイヤモンド社
株式会社メンタルサポート研究所 代表 博士(学術)・臨床心理士 倉成央